厚生労働省のキャリアコンサルティング実施のために必要な能力要件の説明をしています。前回は、「Ⅲキャリアコンサルティングを行う、2.相談過程において必要な技能、(4)自己啓発の支援」まで説明しました。
今回は、「Ⅲキャリアコンサルティングを行う、2.相談過程において必要な技能、(5) 意思決定の支援」から説明を続けます。
(5) 意思決定の支援
1) キャリア・プランの作成支援
・自己理解、仕事理解及び啓発的経験をもとに、職業だけでなくどのような人生を送るのかという観点や、自身と家族の基本的生活設計の観点等のライフプランを踏まえ、相談者の中高年齢期をも展望した中長期的なキャリア・プランの作成を支援することができること。
2) 具体的な目標設定への支援
・相談者のキャリア・プランをもとにした中長期的な目標や展望の設定と、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援することができること。
3) 能力開発に関する支援
・相談者の設定目標を達成するために必要な自己学習や職業訓練等の能力開発に関する情報を提供するとともに、相談者自身が目標設定に即した能力開発に対する動機付けを高め、主体的に実行するためのプランの作成及びその継続的見直しについて支援することができること。
(6) 方策の実行の支援
1) 相談者に対する動機づけ
・相談者が実行する方策(進路・職業の選択、就職、転職、職業訓練の受講等)について、その目標、意義の理解を促し、相談者が自らの意思で取り組んでいけるように働きかけることができること。
2) 方策の実行のマネジメント
・相談者が実行する方策の進捗状況を把握し、相談者に対して現在の状況を理解させるとともに、今後の進め方や見直し等について、適切な助言をすることができること。
(7) 新たな仕事への適応の支援
・方策の実行後におけるフォローアップも、相談者の成長を支援するために重要であることを十分に理解し、相談者の状況に応じた適切なフォローアップを行うことができること。
(8) 相談過程の総括
1) 適正な時期における相談の終了
・キャリアコンサルティングの成果や目標達成具合を勘案し、適正だと判断できる時点において、相談を終了することを相談者に伝えて納得を得たうえで相談を終了することができること。
2) 相談過程の評価
・相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度について自己評価できるように支援することができること。
・キャリアコンサルタント自身が相談支援の過程と結果について自己評価することができること。
Ⅳ キャリアコンサルタントの倫理と行動
1.キャリア形成及びキャリアコンサルティングに関する教育並びに普及活動
・個人や組織のみならず社会一般に対して、様々な活動を通じてキャリア形成やキャリアコンサルティングの重要性、必要性等について教育・普及することができること。
・それぞれのニーズを踏まえ、主体的なキャリア形成やキャリア形成支援に関する研修プログラムの企画、運営をすることができること。
2.環境への働きかけの認識及び実践
・個人の主体的なキャリア形成は、個人と環境(地域、学校・職場等の組織、家族等、個人を取り巻く環境)との相互作用によって培われるものであることを認識し、相談者個人に対する支援だけでは解決できない環境(例えば学校や職場の環境)の問題点の発見や指摘、改善提案等の環境への介入、環境への働きかけを、関係者と協力(職場にあってはセルフ・キャリアドックにおける人事部門との協業、経営層への提言や上司への支援を含む)して行うことができること。
3.ネットワークの認識及び実践
(1) ネットワークの重要性の認識及び形成
・個人のキャリア形成支援を効果的に実施するためには、行政、企業の人事部門等、その他の専門機関や専門家との様々なネットワークが重要であることを認識していること。
・ネットワークの重要性を認識したうえで、関係機関や関係者と日頃から情報交換を行い、協力関係を築いていくことができること。
・個人のキャリア形成支援を効果的に実施するため、心理臨床や福祉領域をはじめとした専門機関や専門家、企業の人事部門等と協働して支援することができること。
(2) 専門機関への紹介及び専門家への照会
・個人や組織等の様々なニーズ(メンタルヘルス不調、発達障害、治療中の(疾患を抱えた)者)に応えるなかで、適切な見立てを行い、キャリアコンサルタントの任務の範囲、自身の能力の範囲を超えることについては、必要かつ適切なサービスを提供する専門機関や専門家を選択し、相談者の納得を得た上で紹介斡旋することができること。
・個人のキャリア形成支援を効果的に実施するために必要な追加情報を入手したり、異なる分野の専門家に意見を求めることができること。
4.自己研鑽及びキャリアコンサルティングに関する指導を受ける必要性の認識
(1) 自己研鑽
・キャリアコンサルタント自身が自己理解を深めることと能力の限界を認識することの重要性を認識するとともに、常に学ぶ姿勢を維持して、様々な自己啓発の機会等を捉えた継続学習により、新たな情報を吸収するとともに、自身の力量を向上させていくことができること。
・特に、キャリアコンサルティングの対象となるのは常に人間であることから、人間理解の重要性について十分に認識していること。
(2) スーパービジョン
・スーパービジョンの意義、目的、方法等を十分に理解し、スーパーバイザーから定期的に実践的助言・指導(スーパービジョン)を受けることの必要性を認識していること。
・スーパービジョンを受けるために必要な逐語録等の相談記録を整理することができること。
5.キャリアコンサルタントとしての倫理と姿勢
(1).活動範囲・限界の理解
・キャリアコンサルタントとしての活動の範囲には限界があることと、その限界には任務上の範囲の限界のほかに、キャリアコンサルタント自身の力量の限界、実践フィールドによる限界があることを理解し、活動の範囲内においては誠実かつ適切な配慮を持って職務を遂行しなければならないことを十分に理解し、実践できること。
・活動範囲を超えてキャリアコンサルティングが行われた場合には、効果がないだけでなく個人にとって有害となる場合があることを十分に理解していること。
(2) 守秘義務の遵守
・相談者のプライバシーや相談内容は相談者の許可なしに決して口外してはならず、守秘義務の遵守はキャリアコンサルタントと相談者の信頼関係の構築及び個人情報保護法令に鑑みて最重要のものであることを十分に理解し、実践できること。
(3) 倫理規定の厳守
・キャリア形成支援の専門家としての高い倫理観を有し、キャリアコンサルタントが守るべき倫理規定(基本理念、任務範囲、守秘義務の遵守等)について十分に理解し、実践できること。
(4) キャリアコンサルタントとしての姿勢
・キャリアコンサルティングは個人の人生に関わる重要な役割、責任を担うものであることを自覚し、キャリア形成支援者としての自身のあるべき姿を明確にすることができること。
・キャリア形成支援者として、自己理解を深め、自らのキャリア形成に必要な能力開発を行うことの必要性について、主体的に理解できること。
以上が、厚生労働省がキャリアコンサルタントとして求める能力要件です。このキャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系は、当然ですが国家資格キャリアコンサルタント、国家技能検定キャリアコンサルティング1級、2級各試験の出題範囲に含まれます。能力要件の有無を判定する国家資格試験の受験資格には実務経験者の他に、この厚生労働大臣が定めるキャリアコンサルタントに必要な能力体系に沿った講習課程を修了した人も含まれています。厚生労働省はこのキャリアコンサルタント能力要件を習得するための養成講座として、150時間程度の講義、演習を提示しています。
(つづく)平林良人