厚生労働省のキャリアコンサルティング実施のために必要な能力要件の説明をしています。前回は、「Ⅱキャリアコンサルティングを行うために必要な知識、11.個人の多様な特性の知識」まで説明しました。今回は、「Ⅲ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能、1.基本的な技能、(1)カウンセリングの技能」から説明を続けます。
Ⅲ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能
1.基本的な技能
(1)カウンセリングの技能
・カウンセリングの進め方を体系的に理解したうえで、キャリアコンサルタントとして、相談者に対する受容的・共感的な態度及び誠実な態度を維持しつつ、様々なカウンセリングの理論とスキルを用いて相談者との人格的相互関係の中で相談者が自分に気づき、成長するよう相談を進めることができること。
・傾聴と対話を通して、相談者が抱える課題について相談者と合意、共有することができること。
・相談者との関係構築を踏まえ、情報提供、教示、フィードバック等の積極的関わり技法の意義、有効性、導入時期、進め方の留意点等について理解し、適切にこれらを展開することができること。
(2)グループアプローチの技能
・グループを活用したキャリアコンサルティングの意義、有効性、進め方の留意点等について理解し、それらを踏まえてグループアプローチを行うことができること。
・若者の職業意識の啓発や社会的・基礎的能力の習得支援、自己理解・仕事理解などを効果的に進めるためのグループアプローチを行うことができること。
(3)キャリアシート(法第十五条の四第一項に規定する職務経歴等記録書を含む。)の作成指導及び活用の技能
・キャリアシートの意義、記入方法、記入に当たっての留意事項等の十分な理解に基づき、相談者に対し説明できるとともに適切な作成指導ができること。
・職業能力開発機会に恵まれなかった求職者の自信の醸成等が図られるよう、ジョブ・カード等の作成支援や必要な情報提供ができること。
(4)相談過程全体の進行の管理に関する技能
・相談者が抱える課題の把握を適切に行い、相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、各段階に応じた支援方法を選択し、適切に相談を進行・管理することができること。
2.相談過程において必要な技能
(1) 相談場面の設定
1) 物理的環境の整備
・相談を行うにふさわしい物理的な環境、相談者が安心して積極的に相談ができるような環境を設定することができること。
2) 心理的な親和関係(ラポール)の形成
・相談を行うに当たり、受容的な態度(挨拶、笑顔、アイコンタクト等)で接することにより、心理的な親和関係を相談者との間で確立することができること。
3) キャリア形成及びキャリアコンサルティングに係る理解の促進
・主体的なキャリア形成の必要性や、キャリアコンサルティングでの支援の範囲、最終的な意思決定は相談者自身が行うことであること等、キャリアコンサルティングの目的や前提を明確にすることの重要性について、相談者の理解を促すことができること。
4)相談の目標、範囲等の明確化
・相談者の相談内容、抱える問題、置かれた状況を傾聴や積極的関わり技法等により把握・整理し、当該相談の到達目標、相談を行う範囲、相談の緊要度等について、相談者との間に具体的な合意を得ることができること。
(2)自己理解の支援
1) 自己理解への支援
・キャリアコンサルティングにおける自己理解の重要性及び自己理解を深めるための視点や手法等についての体系的で十分な理解に基づき、職業興味や価値観等の明確化、キャリアシート等を活用した職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境の分析等により、相談者自身が自己理解を深めることを支援することができること。
2)アセスメント・スキル
・面接、観察、職業適性検査を含む心理検査等のアセスメントの種類、目的、特徴、主な対象、実施方法、評価方法、実施上の留意点等についての理解に基づき、年齢、相談内容、ニーズ等、相談者に応じて適切な時期に適切な職業適性検査等の心理検査を選択・実施し、その結果の解釈を適正に行うとともに、心理検査の限界も含めて相談者自身が理解するよう支援することができること。
(3) 仕事の理解の支援
・キャリア形成における「仕事」は、職業だけでなく、ボランティア活動等の職業以外の活動を含むものであることの十分な理解に基づき、相談者がキャリア形成における仕事の理解を深めるための支援をすることができること。
・インターネット上の情報媒体を含め、職業や労働市場に関する情報の収集、検索、活用方法等について相談者に対して助言することができること。
・職務分析、職務、業務のフローや関係性、業務改善の手法、職務再設計、(企業方針、戦略から求められる)仕事上の期待や要請、責任についての理解に基づき、相談者が自身の現在及び近い将来の職務や役割の理解を深めるための支援をすることができること。
(4) 自己啓発の支援
・インターンシップ、職場見学、トライアル雇用等により職業を体験してみることの意義や目的について相談者自らが理解できるように支援し、その実行について助言することができること。
・相談者がそれらの経験を自身の働く意味・意義の理解や職業選択の材料とすることができるように助言することができること。
(つづく)平林良人