ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。
聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、すなわち傾聴を理解するには、まず「聞くこと」と「聴くこと」の違いを理解しなければなりません。簡単に言えば、「聞く」というのは単に聞こえているということであり、相手に意識を集中させる必要はありません。一方、「聴く」というのは、相手が言わんとすることに耳を傾け、相手の話を理解しようとすることで、相手に意識を集中させることが必要です。聞くという行動は受動的であり、エネルギーをあまり使いませんが、聴くという行動は能動的でかなりエネルギーを必要としますので、かなり疲れる行動です。
誰でも話をするときには、「事実」、「要望」、「感情」という3つの要素を混えながら話をしますので、お互いが今何を主としているかをキャッチすることが必要です。お互いの話が噛み合わない場合は、その3要素のうちのどれかがお互いに認識できず不毛なすれ違いをしていることに気が付く必要があります。話し手の話がよく分からないときは、話し手のメッセージがこの3要素のうちのどれか、あるいは3要素のどれかがわかっても内容が分からないなどいろいろな場合があります。
≪クライアントを理解する聴き方≫
<クライアントの話を理解するには>
①クライアントの言いたいことに焦点をあて聴く。
・自分の聞きたいことではなく、クライアントが言いたいこと、伝えたいこと、わかってもらいたいことに注目する。
・クライアントの感情・気持ちに注目する
②クライアントが言いたいこと、気持ちを確かめて応答する。
・クライアントの要点を言葉で伝えて確かめる。
・言いたい、伝えたい、わかってもらいたいことは何かを把握する。
相談場面では、クライアントがキャリアコンサルタントを信頼して自分のことを話す気にならなければ、面接は始まりません。そのため、まずは信頼関係を構築しなければなりません。その信頼関係をラポールといいます。相談はラポールの構築から始まります。そのためには、領いたり、あいづちを打ったりすることが効果的です。相手の話をきちんと聴いていなければ、うなずいたり、あいづちを打ったりすることができません。うなずいたり、あいづちを打ったりすることは、相手の話を聴いていることの証しでもあります。
話し手が伝えようとしているメッセージが、話3要素のうちのどれかを正確に理解するために、話の区切りでクライアントが言ったことを確認する方法があります。その際、キャリアコンサルタントがクライアントの言ったことを一言一句そのまま繰り返すことをエコーイング(オウム返し)といい、相手が言ったことを自分のことばに置き換えて返すことをバラフレージングといいます。
パラフレージングをすることにより、キャリアコンサルタントは自分の理解が正しいかどうかを確認することができ、同時にクライアントにとっては、キャリアコンサルタントの言ったことから自分の言ったことが正しく伝わったかどうかを確認することができます。さらには、クライアントにとってはキャリアコンサルタントの表現と違う表現で返してもらうことによって、新たな気づきにつながる可能性もあります。
最後に、山本五十六の語録「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という格言を紹介します。これは傾聴とは違いますが、人と人とのコミュニケーションの本質を説明する言葉として今に至るまで世に伝わる金言です。
(つづく)Y.H