キャリアコンサルタントの知恵袋 | 株式会社テクノファ

実践に強いキャリアコンサルタントになるなら

基礎編・理論編

うつ病を自覚しないクライエント 2 I テクノファ

投稿日:2024年8月14日 更新日:

前回は本人がうつ病であると自覚して専門医の診断を受けた例を紹介しました。キャリアコンサルタントとしては、ある意味扱いやすい事例だったと思います。しかし、本人もキャリアコンサルタントもうつ病にかかっていることを知らないでいると、コンサルティングで意識せず症状に思わず一歩踏み込んでしまう失敗があります。うつ病は職場の環境や人間関係が引き金になって発症するケースが多いと思いますが、Aさんのようにはっきりとした精神症状を伴わないために、周囲の人も本人もうつ病であることに気付いていないクライアントは数多く存在します。

国内では100人に3~7人の割合でそのようなうつ病が発症していると言われており、一度発症すると治るまでに2年~10年、多くの場合4年~5年かかるといわれています。今の世の中のせわしい環境の中では誰が発症しても不思議ではない、また完治するまでに比較的長い期間を要すると言われているうつ病への知識を深めておくことは、キャリアコンサルタントに必要なことです。クライアントのうつ病の兆候を見逃さず、もしクライアントがうつ病であることに気付いた時には、早くケアできるようにまずは治療のために精神科医に引き継ぐことがキャリアコンサルティングには求められています。

しかし、完治するまでの比較的長い期間を、うつ病と診断されたクライアントが社会や仕事と無関係に過ごすことはできません。クライアントにとっては社会とのかかわり合いが必要で、自宅に引きこもること、似たような環境で過ごすことはクライアントにとってマイナスです。医師の判断でクリニックから薬を処方されておらず、医師が「仕事の話」をしても良いと判断をしている場合には、キャリアコンサルタントが、治療と仕事の両立を支援するという、うつ病クライアントとのかかわり会いが求められます。

今回は中堅企業に勤務する40代の男性Aさんについて紹介します。Aさんは30代前半の時に今の会社に営業職として中途採用され、以来営業部署で働いてきました。転職前に勤務していた会社では、今の会社とは異なる製品の営業をしていたそうです。転職しようとした主な動機は、よりやりがいを感じられる仕事がしたいという思いが強かったからだそうです。

中途採用された会社は製造業で、国内外の大手企業ブランドのOEM製品の設計製造を行うメーカーでした。その会社では、それらの顧客企業のブランド製品に組み込まれる部品の設計製造も行っており、商社を介さず顧客と直接取引を行っていました。Aさんによると前の会社と異なるこの取引形態のために、同じ営業でも以前と比べて社内における位置づけや重要度は高く感じられており、Aさんには求めていたやりがいを感じることができる職場のようでした。Aさんは会社の顧客のなかの何社かを担当顧客として割り振られて顧客対応に忙しい毎日を送ることになりました。

この会社の営業の仕事の大まかな内容は次のようなものでした。
・一般的な営業の業務といえる受注から出荷までの管理
・顧客ごとに年に数回行われる新製品発売のための、顧客と自社の開発設計部門を交えた仕様の確認業務
・自社の生産管理部門との新製品あるいは部品の原価の確認と決定業務
・組み立て部門との出荷納期の確認業務

これらの業務は前の会社とは異なる多岐にわたる業務であり、自分に割り当てられた仕事では満足できなかったAさんにとっては望んだとおりの職場といえるところでした。またAさんは、英語の能力が商談や契約まで可能なレベルにあったため、海外の顧客の担当をまかされることも多くなり、それに伴って海外出張の機会も増え以前にも増して多忙になりました。これらの追加の業務も自分でやりたいと思っていたことであり、希望した仕事が実現できる充実した業務環境を享受しているようでした。
(続く)A.K

-基礎編・理論編

執筆者:

関連記事

傾聴とは積極的に聴くこと キャリアコンサルタント養成講座

ドラッカーは近代経営学の父と呼ばれた人ですが、彼は経営者が効果的にマネジメントする8つの慣行を提案しました。その中に「最初に聴き、最後に話す」というものがあります。リーダーシップの本質は「信頼を獲得して結果を得ること」ですが、 信頼を得る行動で最大効果を生むものが聴くことであると述べています。驚くべきことに、多くの指導者は聴くことをうまくやれません。多くの調査で「指導者の聴く能力」は、評価項目で最も低いレベルに位置付けられています。最初に聴いて、最後に話しすることは大変重要なことです。 それはとても単純ですが、多くの人々はそれを理解することができません。 聞くと聴くとは違います。積極的に聞く、 …

キャリアコンサルティントの相談のポイント

キャリアコンサルタントの相談実施においておける7つのポイントについて説明しますが、すべてを実行するとは限りません。クライエントのニーズに合わせて必要なものを実行します。 キャリアコンサルティングにおける相談は、ガイダンスやカウンセリングなど他の相談と重なるところや類似するところがありますので、キャリアコンサルティングの特徴を理解しておく必要があります。 木村周氏は著書『キャリアカウンセリング(改訂新版)』のなかで、キャリアガイダンスとキャリアカウンセリングについて、その他広く行われているガイダンスやカウンセリングと比較して、その特徴を述べています。それらを参考にキャリアコンサルティングの特徴を …

カウンセリングの基礎的スキルに関して

キャリアコンサルタント基礎編・理論編としてアサーション、グループワークなどカウンセリングの基礎的スキルに関して説明をします。 ■アサーション キャリアコンサルティングの相談において、キャリアコンサルタントは的確なフイードバックができることに加えて、適切な助言や提言ができることも求められる場合があります。そのためには、積極的傾聴のスキルに加えてアサーションも必要となります。アサーションとは、アサーティブの動詞ですが、いわゆる日本語の自己主張とは違います。「自分のことを大切にしながら同時に相手のことも大切にして、自分の気持ち、意見、信念などをその場に合った適切な方法で正直に、率直に表現する」ことで …

MBO 目標管理2ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

テクノファのキャリアコンサルタントを指導した横山哲夫先生(1926-2019)は、目標による管理と人事考課の統合 についてこう述べています。これからの企業の人材育成の焦点は個立・連帯群の若者だということ。そして、個立・連帯群を惹きつけ、活かし、増やし、伸ばすマネジメントが人材育成のゴールだということ。個立・連帯群が個立指向であると共に組織の現実をわきまえた活私奉公型であることがポイントであると言っています。自分を活かす舞台として、組織のために全力投球できるのは若者達であり、自由化、国際化を底流とする連続初体験の時代に活躍できるのは、個立型ヤングをおいて他にいない。彼らを活かし、ふやし、伸ばすこ …

MBO 目標管理ーキャリアコンサルタントの知恵袋|テクノファ

キャリアコンサルタントに有用なお話をしたいと思います。横山哲夫先生(1926-2019)がいたモービル社では、主要ラインの長(役員)を委員とする会議をトップが招集し、各種の人事資料を基にして幹部職位の後継可能者の一人ひとりについて論議をつくし、多面評価と育成プランの検討を行なっていました。この人材育成会議は、同社ではトップの交替にかかわらず継続されており、席上決定をみたプラン以外の異動、昇進、教育、配転が行なわれることはめったにありませんでした。密室や派閥の人事とはまったく無縁の年次定例会議が丸々二日間人材育成のみを討議する会議として全社員に周知されていました。モービル社はまた、例年、別の時期 …