ヘルピング技法について(1)かかわり技法(事前段階)(2)応答技法(第1段階)(3)意識化技法(第2段階)を解説してきました。第2段階までに用いられてきた技法は、自己理論、精神分析理論、そして論理療法を伏線としており、ヘルピーが自分の実態「現在地」に気づき、なりたい自分の「目的地」に気づくことをサポートするためのものでした。
これから解説する(4)手ほどき技法は、既に記したように行動療法が伏線になっています(國分康孝1996年「カウンセリングの原理」)。しかしながら、行動療法というと治療的意味合いが強くなってしまうので、これを意識して以下の解説では行動カウンセリングと記します。これは、私たちのテーマであるキャリアコンサルティングには教育的意味を含んでいる行動カウンセリングとして捉えた方がより活用しやすくなると思われるからです。
なお、以下の解説では、前回までのものに加えて、國分康孝1980年「カウンセリングの理論」とカーカフ著、國分康孝監修、(社)日本産業カウンセラー協会訳の1993年「ヘルピング・ワークブック」・1994年「ヘルピング・トレーナー・ガイド」を引用・参考文献として使用しています。
1.ヘリピング技法解説の続き
(4)手ほどき技法(第3段階)
(第1段階)の「現在地」 から(第2段階)の「目的地」 へ移行するにはどうすればよいかを工夫する。この工夫の段階を手ほどき技法という。
①ヘルパーは手ほどき技法でかかわり、ヘルピーはそれを行動化(「目的地(目標)」に到達するために計画を立て、それを実行)する段階。
②具体的技法は、目標の明確化、行動計画の作成、スケジュールと強化法の設定、行動化の準備、各段階の検討の手ほどき。
(5)援助過程の繰り返し
ヘルパー・ヘルピーの相互作用としての(第1段階)から(第3段階)の各結果を検討しながら、必要に応じて適切な段階へ行き戻りしながら援助過程を繰り返す。
2.手ほどき技法(第3段階)における行動カウンセリングの適用
(1)行動カウンセリング適用の背景
手ほどき技法の解説の前に、國分がその伏線になっていると考えた行動カウンセリング(原文では行動療法)のポイントについて「カウンセリングの理論」から抜粋紹介しておきます。なお、行動カウンセリングは、近年、用語として耳にすることは少なくなっており、1970年代後半から認知療法や論理療法との融合が進み、認知行動療法(CBT)として発展しているのはご承知のとおりです。
①行動主義
・行動カウンセリングの基礎理論である行動主義とは、行動は条件づけの結果であるとする考え方のことである。
・条件づけにはレスポンデント(古典的)条件づけとオペラント(道具的)条件づけの二つがある。
レスポンデント条件づけとは刺激に反応(レスポンド)してできるもの。笑う、泣くなどの感情体験はレスポンデント条件づけの結果。
オペラント条件づけとは刺激がなくても自発的・自主的におこるもの。ネクタイをしめる。車を運転する等技能(パフォーマンス)の学習はオペラント条件づけの結果。
・伝統的心理療法はモチベーションを変えれば行動は変わるという前提があるので、その動機なるものを明らかにしようとした。その方法というのが自己内省であり、推測(解釈)であった。しかし、行動カウンセリングは推測ではなく事実に立つ。
それは表面に表れた観察し得る反応に基づいて、治療方針を立てることである。
行動を治すとは心を治すのではなく、目で観察し得る反応を変えることである。
②行動カウンセリング(この項目についてはカウンセラー、クライエントと記す。)
・ほとんどがオペラント条件付けに基づいており、直截的ではないが強化・回避・消去の原理に立っている。主な技法を下記に記す。
・構成・強化法 行動カウンセリングの目標を定め(目標構成)、これを下位目標に分割する。クライエントに下位目標を順繰りに実践させ、日記風にレポートにする。面接時に持参したそのレポートをカウンセラーがフィードバックする。
・ロールプレイ・強化法 ロールプレイ(役割演技)に他者からの評価(ほめことば)を含めて目的の行動をとれるようサポートする。
・行動契約法 カウンセラーとクラインとが目標とする行動変化の内容について同意したらサインする。
・モデル提示法 模倣による行動の変容。接触脱感作法、映像模倣法、知的認識法、計画・決定法、問答式問題解決法、コンフロンテーション
③行動カウンセリングの示唆するもの
國分は次のような示唆をカウンセリング一般に与えてくれると記している。
・指示するとか教えるということをそれほど恐れる必要はない。ただし、指示の仕方は決して権威主義的ではない。
・操作主義であるが、それが悪用されないように面接開始時に契約を結び、目標を具体的に設定し、方法を選ぶ。
・行動カウンセリングは対症療法と評価されることがあるが、対症療法を表層的とか一時的と軽視しない。
・洞察万能にあらず。気づいただけでは如何ともしがたいことがある。そのときには行為の仕方を具体的に変える訓練方式が功を奏することがある。
(2)手ほどき技法(第3段階)
これまでの解説の繰り返しになりますが、ヘルピングの第3段階の目標は、ヘルピーの行動化(「目的地(目標)」に到達するために計画を立て、それを実行する)であり、これをサポートするための技法が手ほどき技法です。技法の中核は目標達成のための段階に分けた行動計画の作成と各段階達成のための強化法を用いた援助です。
この技法では、目標と行動計画の各段階はヘルピー個人の資質や発達段階に応じてより具体的に設定すること、この段階において、ヘルパーには具体的で明確な指示を作成することがポイントとなります。ただし、ここで強く意識しなければならいことは、決して、ヘルパーが考えたことをヘルピーに押し付けるのではないということです。ヘルパーには、手ほどき技法においても、へルーピーに対する援助者、助言者、あるいはサービス提供者であることを十分に認識した行動が求められることはいうまでもありません。
①目標の設定
・手ほどき技法でいう目標とは、観察し、測定可能ないわゆる5W1Hで明確に書くことのできるものである。ヘルパーはヘルピーに次のような質問を行う。
目標に だれ、または 何 が含まれているか。
個人に 何をしたいかが含まれているか。
どのようにして、なぜ、その目標が設定されているか。
どこで、いつ、その行動が、行われるか。
・ヘルパーはヘルピーが自分の目標をいつ達成したかが分かるように目標を回数や時間の量などの尺度で表せるように質問する。ヘルピーが目標を達成したとき、達成度をどのようにわかるか。
②行動計画の作成
・行動計画とは、目標達成に向けての行動をより小さな行動段階に分けて、各段階では次の段階へ導くための観察測定可能な行動を記す補足段階を設定する。補足段階は各段階を達成するために必要なより細分した項目を選定し順序づけて用いる。
(目標へ向けられた段階と補足段階の説明)
例:目標「技術提案について、どの位の頻度でできたかを目安にして、専門技術者として評価されるようになりたい。」
③スケジュールと強化法の設定
・スケジュール設定とは各段階の開始日と終了日を決めることである。
・行動計画の達成に応じた行動ができるよう、強化法によりヘルピーを励ましサポートする。
強化法には正(褒賞)と負(罰則)の二通りがある。
・ヘルピーを動機づける強化法とは、ヘルピーにとって関心のあるものである。
④行動化の準備
・行動計画の全段階を見直し、手直しやリハーサルを行う。
・手直し:行動計画による行動を起こした結果をフィードバックし、行動計画又は目標を修正する。
・リハーサル:ヘルピーが行動計画を実行する前に達成ための方法を練習し、目標達成の可能性を高める。
⑤各段階の検討の手ほどき
・各段階を達成するために必要なヘルピーの身体的、精神的、知的資質を加味して検討する。
・各段階の行動の前・中・後に何をしなければならないかを自問自答して明らかにしていく。
行動前の検討段階:各段階で達成するためには何をすればよいか。
行動中の検討段階:この段階を正しく実行しているか。
行動後の検討段階:この段階を効果的に実行したか。
引用・参考文献 國分康孝1980年「カウンセリングの理論」とカーカフ著、國分康孝監修、(社)日本産業カウンセラー協会訳の1993年「ヘルピング・ワークブック」・1994年「ヘルピング・トレーナー・ガイド」
3.援助過程の繰り返し
ヘルピーが行動計画の第1段階に移った時点から、新たなヘルピングのサイクルが始まります。
ヘルパーは、手ほどき技法の⑤各段階の検討の手ほどきによるヘルピーの自問自答の反応や行動の結果を観察し、傾聴して対象とすべき段階へ行き戻りしながら援助過程を繰り返します。ヘルピング技法は、以上のようなヘルパーとヘルピーの相互作用によって、ヘルピーが、さらに自己探索を進め、自己理解を深め、行動計画を修正し、より効果的な行動をとれるようになることを目指す援助サイクルといえます。
(続く)
キャリアコンサルタントhttps://www.tfcc.jp/ 1級技能士 上脇 貴